【ネタバレ注意】ペンギン・ハイウェイの感想と考察
(※本記事には下記の作品のネタバレが含まれます。)
・ペンギンハイウェイ
・不思議の国のアリス、鏡の国のアリス
また、原作未読・映画から読み取れる事のみを判断材料とした考察ですのであしからず。
有頂天家族や四畳半神話大系、夜は短し歩けよ乙女を手掛けた森見登美彦原作のアニメ映画。
事前情報無しで観に行ったのですが、幼少~少年期の青春エンタメかと思いきやファンタジーやSF、カタルシスを孕んだ非常に面白い作品だった。
お姉さんとアオヤマ君を中心とした人間模様もさながら、ウチダ君やハマモトさんたちと共に知らない世界や謎を自分たちの手で解明しよう、疑問に思った事をそのままにせず自分たちなりの答えを見つけようとする姿勢は、私たちが彼らと同じ年齢だった頃に初めて触れた理化学のドキドキを思い出させてくれるような気持ちになった。
お姉さんはTwitterで誰かが言っていた「近所のお姉さん」という概念の集合体のようなキャラクターだった。ラストシーンで世界から退場する「絶対に手が届かない憧れの人」という表現が、幼少~少年期の家族以外の女性に対する憧れや儚さを上手く表現出来ていて良いなと思った。
また、アオヤマ君の「おっぱい」に対する執念は純粋な疑問や興味の対象としてトップレベルにあるというところがポイントで、自分の研究対象としての謎を持つお姉さんを魅力的に感じる事から恋愛感情と勘違いしていたのではないかと思われる。
恐らく、お姉さんの部屋でチェスをしている最中に寝落ちするシーンで初めて「おっぱい」以外の部分で女性としての魅力(=本能的に遺伝子に刻まれているフェロモン)を認識して成長をしたのではないかと思われる。ただし、これも恋愛感情ではなく、もっと単純な家族以外の異性に対する魅力*1を認識したという所だと思われる。
そう考えると、お姉さんに危害が及ぶから≪海≫の研究を放棄したいと言ってハマモトさんがキレたシーンにおいても、ハマモトさん視点ではアオヤマ君がお姉さんを好きだからかばっているように見えたかもしれないが、実際は自分の大切な研究対象を他人に奪われたくない(=恋愛感情ではない)という気持ちから出た発言だったのではないか?と考えられるのも面白いと思う。
プロローグのアオヤマ君の口上、エピローグで対になっていて「もう結婚はする人は決めている」のところでハマモトさんの笑顔のカットが入るのも最高だし、「教えてあげたいお姉さんの事をどれだけ好き"""だったか"""を」って過去形な所も最高、うるせえ私はこういうオタクだ。
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で、こっからは考察で自分の中で疑問に思った点や、違和感についてまとめたいと思う。
まず、この作品を語る上で外せないのが「鏡の国のアリス」という物語だ。
作中に登場する「チェス」、「ウロボロスな世界」、「ジャバウォック」、「理不尽な問いかけ」、「絶食しても生存するアリス」、などはすべて「鏡の国のアリス」に登場する要素である。
作中、小学四年生の子供たちの中で当然のような遊びとして登場する「チェス」は現実世界と照らし合わせると多少なりとも違和感は感じるはずだ。これは、作中のアリスの行動を示唆するモチーフとして登場した「チェス」であり、この世界が非現実側である事を示唆しているのではないかと感じた。
≪海≫が佇む森の奥の平原から続く川を辿ったウチダ君が見つけた、この世界がウロボロスのようにループしている構造である事。これは丘の上に上がろうとするアリスが何度も家の前に戻される描写と同じだ。
お姉さんが投げた缶ジュースをペンギンに変換した様子を見せ、アオヤマ君に問いかける「この謎を解いてごらん、君にはできるか?」という挑戦状は、赤と白の女王の理不尽な質問「犬から骨を引くと答えは何か」と酷似している。
科学的に根拠がある事柄を組み合わせて解法を導き出すアオヤマ君にとって、未だかつてない経験だ。この理不尽さとは、前例が無く人知の域を超えている、ざっくりと言ってしまえば定義が無いものの答えを導き出せという部分にある。
これに関連して、お姉さんが絶食しても生きていられる描写は、先の理不尽な質問に答えられなかったアリスが受けた鏡の世界で受けた仕打ちと同じであり、またアリスはこれでも生存している。
このように、ジャバウォックに限らずキャラクターの立ち位置や世界の構造を含めて考えたところ、私は以下のような結論に至った。
・アオヤマ君が居る世界は「世界の果て」で、お姉さんが元々居た世界は「現実世界」
・お姉さんは「アリス」でアオヤマ君たちは「世界の果ての住人」
さらに根拠を補足していこう。
■≪海≫≪ペンギン≫≪ジャバウォック≫について
・海は現実世界と世界の果てを繋ぐワームホール。
・ペンギンはそれを塞ぐ役割を持つ者。
・ジャバウォックはワームホールを広げる手助けをする者。
海が大きくなるとお姉さんの調子が良くなるというのは、元の世界が果ての世界を侵略してペンギンエネルギーの取得効率が良いからで、海から離れると体調が悪くなるのは元の世界から遠ざかりペンギンエネルギーの取得効率が悪くなるからと推測する。
■アオヤマ君を含む「果ての世界の住人」に対する違和感
・スクールカーストを決定づける要素の一つとしてチェスを嗜んでいる子供たち。
・強いのはアオヤマ君とハマモトさんの二人だがクラスメイト全員が当然のようにルールを把握している事。
・客観的に考えて日本の小学四年生でチェスを嗜んでいるのはマイノリティ側だと思われる。(=違和感、鏡の国のアリスで登場する要素という点で現実世界ではないという示唆?)
・ハマモトさんが平原で浮かぶ水球を見つけた際に命名した≪海≫という名前。
・川があるのに海が存在しない街。
・一度も海を見たことが無いというアオヤマ君*2。
・作中で電車を使った際も、お父さんとイオンの近くの喫茶店に行ったときも、一度も街の外に出ていない*3。
アオヤマ君のお父さんは、「世界の果ては思ったより近くにあって、世界は裏返っている」といったこの世界の仕組みを理解しているかのような口ぶりをしている事、バスを使って街の外に出てアオヤマ君に対して海外のノート*4をお土産として買ってきている点などから、外の世界と行き来が出来る不思議の国のアリスで言うところの「服を着た白ウサギ」ではないだろうかと推測する。
■お姉さんについて
・海の記憶や実家の記憶、家族の記憶は現実世界で体験した本物の記憶。
・ある日「世界の果て」に迷い込み、ペンギンやコウモリを生み出す不思議な力を使えるようになる
・これはアリスの涙で洪水が起きたり突然身体が大きくなったり小さくなったりといったような、異世界では現実世界で起こりえない事象が発生する点と酷似している*5。
・お姉さんはアオヤマ君の成長を見守りたいと言っていたように「果ての世界」に未練があり留まりたいと考えていた。
・その無意識が生み出した産物がジャバウォックで、それは意図的ではないにせよ「果ての世界」にとっては悪影響を及ぼすものだった。
・アオヤマ君のお父さんの海外のお土産同様、現実世界の物は「果ての世界」にも持ち込むことが出来るため実家の写真はアオヤマ君の手元に残っている。
鏡の国のアリスの12章では「どちらの夢だった?」という表題があり、これは「アリスの夢?それとも赤の女王の夢?」という問いかけである。ペンギンハイウェイにおいては「お姉さんの夢?アオヤマ君の夢?」と置き換える事が出来るだろう。
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一度しか見ていない事や、パンフレット未購入だったりもあって、ガバってる所があったらTwitterとかで適宜指摘してくれるとすごい嬉しいです。
全然関係ないけど、ジャバウォックってワードが出てきた瞬間に「喰らいつく俺の顎、引き掴む俺の鈎爪」って脳内で一生ボイスが再生されてて最悪だった、先グランブルでコンシードして欲しい。
観終わった直後は圧巻されてたけど、しっかりと自分の中で咀嚼したらすごく面白い作品だったと思えたので、タイミングあったらもう一度観に行きたいな。